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冷湿布と温湿布はどう使い分けるのですか?
普段、薬局でも簡単に買える湿布。誰もが一度は使ったことのある薬だと思いますが、じつは、医師を含めて、多くの方が冷湿布と温湿布の違いについてすら、きちんと説明できないのが現実なのです。年を重ねるとともに使う回数も増えていく湿布について、正しい知識を持つことで、より効果的な使い方もできるようになります。
まず、湿布には古いタイプの第一世代と呼ばれる湿布があります。これは今でも薬局などで売られていますが、病院や医院ではほとんど処方されていません。病院や医院で処方されているのは、そのほとんどが、第二世代と呼ばれる新しいタイプのより強力な湿布なのです。
第一世代の湿布には、いわゆる消炎鎮痛剤がほとんど含まれておらず、冷感を感じさせると同時に、痛みや腫れを少し緩和させるメントールやサリチル酸、もしくは、皮膚の血行をよくして温感を感じさせるトウガラシエキスやカプサイシンなどが主に含まれていて、いわゆる、冷湿布(冷感湿布)と温湿布(温感湿布)の2種類に区別されていました。つまり痛みや腫れを取る薬効は弱かったわけです。貼った感じが、冷たいか温かいかで、冷湿布と温湿布に分かれます。
これに対して、最近では、経口の消炎鎮痛剤としてよく使われるインドメタシン、ジクロフェナック、フェルビナク、ロキソプロフェン、ケトプロフェンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤を含んだ第二世代の湿布が広く普及しています。第一世代の湿布に消炎鎮痛効果が少ないのに比べ、これらの第二世代の湿布は強力な局所の消炎鎮痛効果を発揮します。つまり「痛み止め」、「腫れ止め」の湿布です。
しかし、ほとんどの消炎鎮痛剤そのものは、皮膚に冷感や温感を与えないため、これらの第二世代の湿布の多くにも、清涼感を与えるためのメントールなどが含まれています。ヒヤッとはしますが、本当に冷やしているわけではないのです。これらは、冷やしたほうがよい急性の打撲や捻挫などのケガにも、温めたほうがよい慢性の病気やケガにも、痛み止め、腫れ止めとして使用できます。
一般の薬局に売っている湿布には、第一世代と第二世代の両方がありますが、病院やクリニックで処方される湿布のほとんどは、消炎鎮痛剤を含む、第二世代の強力な湿布です。皆さんがそれらの湿布をお持ちなら、袋を調べてみてください。病院やクリニックでもらった湿布の袋には「経皮吸収消炎鎮痛剤」などと書かれていて、「冷湿布」「冷感湿布」とはどこにも書かれていないはずです。この場合、冷湿布と考えずに、いつでも使える消炎鎮痛剤湿布と思ってください。
これに対して、少数ですが、トウガラシエキスやカプサイシンなどの温感を感じさせる成分と消炎鎮痛剤を含む第二世代の湿布も存在します。これは皮膚温を上昇させる効果があるので、「消炎・鎮痛温感湿布」などと袋に書かれているはずです。この湿布は慢性の病気だけに用います。
なお、古いタイプの第一世代の湿布は、メントールなど薬理学的に皮膚を刺激する成分がほとんどなので、第二世代の湿布よりもかぶれやすい可能性があることに注意が必要です。
私の場合は、第二世代であっても、温感タイプは消炎鎮痛剤の含有量が少ないために鎮痛効果が弱く、また少しかぶれやすい印象があるため、患者さんが希望される時にだけ処方しています。通常ほとんどは、強力な消炎鎮痛剤とメントールを含んだ第二世代の湿布を急性疾患と慢性疾患の両方に処方しています。これを私は、冷湿布、冷感湿布とは呼ばずに、痛み止め湿布と呼んでいます。湿布 第一世代
(古い)・冷湿布
(冷感湿布―主に急性に使う)
(消炎鎮痛剤をほぼ含まない)・温湿布
(温感湿布―主に慢性に使う)
(消炎鎮痛剤をほぼ含まない)第二世代
(新しい)・消炎鎮痛湿布
(少し清涼感があり、急性と慢性の両方に使える。強力)・温感タイプ消炎鎮痛湿布
(慢性にのみ使う)
さらに湿布には、形態の違いで大きく分けて、少し分厚く水分を含んだパップ剤と、薄いテープ状のプラスター剤の2種類があります。プラスター剤は主にテープという呼び方をされます。パップ剤は水分が徐々に蒸発する初めのうちは、気化熱で少し冷たく感じます。このために第二世代の消炎鎮痛剤湿布であっても、冷感を感じて冷湿布と一般に呼ぶ人が多いようです。しかし水分が蒸発してしまえば冷たくなくなります。あくまでも消炎鎮痛湿布なので、冷やすべき急性の時でも温めるべき慢性の時でも、両方の場合に使用できます。湿布の説明書である効能書きには、ほとんどのパップ剤でも急性と慢性の両方に効果があると書かれています。
痛み止めや腫れ止めとしてなら、第二世代の湿布が有効です。ただし第二世代の中でパップタイプかテープタイプか、あるいはメンソールの入った普通のタイプか温感タイプか、またどのメーカーのものを使うかは、処方する医師や処方される患者さんの好みにより決まります。
ちなみに、クリームやゲルタイプの外用消炎鎮痛剤と湿布の使い分けは、使う人の好みによります。外用薬は、紀元前3000年頃の古代メソポタミアですでに使用されており、古代エジプト、古代ギリシアで発展してきました。現代の湿布は日本で独自に発達し、日本以外ではクリームやゲル状の外用薬が多く使われています。一度イタリア製の湿布をもらって試しに貼ったことがありますが、さすがに本家本元の日本製のほうが、はるかに貼り心地がよいと思いました。