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下肢のむくみがつらいのですが......
しばしば高齢の方が、下肢のむくみを訴えられます。整形外科領域では、たとえば片方の下肢に障害がある場合、その足がむくむことがよくあります。しかしそれ以外の多くが、内科的な原因で起こります。
元々、血液は鉄を含んだ重たい液体です。心臓というポンプは血液を送り出す力はありますが、50〜100㎝低い、足からの血液を吸い上げるのには苦労します。
では、どのようにして立っている時に静脈の血液を心臓まで戻しているのでしょうか。下腿などの静脈には逆流防止の弁がたくさん備わっています。歩くことによってふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)が伸び縮みする時にポンプのように働き、静脈を絞り、弁のおかげで静脈血が上へ上へと押し上げられるのです。ふくらはぎを第二の心臓とたとえることもあります。心臓の吸引力と助け合って、下肢の重たい血液を心臓まで戻しているのです。
それゆえに、普段歩いている時はよいのですが、一ヶ所に立ち続けたり、長く座り続けたりしていると、筋肉のポンプ作用がないために血液の流れが遅くなり、下肢のむくみや浮腫をきたすことになります。片方の下肢に障害があればあまり動かせないので、どうしても障害のある方の下肢がむくみやすくなります。寝たきりを防ぐために座っていましょうとのキャンペーンがありますが、じっと座ってばかりいるのも、やはりよくありません。ときどき飛行機の中で起こるため、以前はエコノミークラス症候群と呼ばれ、今は旅行者血栓症とかロングフライト血栓症と呼ばれる病気も、脱水とともに長時間座ることが関与しています。家の中でも長い間じっと座っていることや立っていることは危険です。ときどきトイレに立ち、お茶を自分でいれるようにしましょう。あるいは足関節を上下に動かすポンピングをときどき意識的に行ってください。
内科的、全身的なむくみ、浮腫の原因としては、加齢による臓器機能低下症、腎不全、心不全、肝性、低蛋白血症、甲状腺機能低下症、クッシング症候群、悪性腫瘍などがあります。外科的(血管外科的)な原因には下肢の皮膚の感染症、深部静脈血栓症やリンパ管閉塞などの原因があります。その他薬剤性の原因として、たとえば非ステロイド系消炎鎮痛剤による腎機能低下などでもしばしば見られます。こむら返りによく使われる芍薬甘草湯でも生じることがあります。
整形外科的よりも内科的な原因で下肢のむくみや浮腫が生じることが圧倒的に多いので、まずは内科の先生に相談してください。
治療は原因となる疾患の治療が重要ですが、とりあえず下肢をできるだけ上にする、寝ているなら座布団などを敷いて心臓より高くする、座っていても足を椅子の上に置いて少しでも心臓の高さに近づけるなどの工夫が大切です。弾性ストッキングなどを使うこともありますが、炎症がある場合はかえってよくないこともあります。
若い人でも朝と夕方では足の太さが変わります。宇宙の無重力状態では血液が全身にまんべんなく分布するために首回りなどが太くなると聞きます。重い血液が普段いかに日中に立っている時に重力で下肢の方に集まっているか、靴を買う時は、朝ではなくて夕方に買うほうがよいのも、この理由からです。