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注射の後、風呂やシャワーはどのくらい我慢すればよいのですか?
注射の後に風呂やシャワーを制限する理由のひとつは、注射部位を温めすぎることで生じる問題を避けるためですが、最大の理由は、注射針の穴から、注射した部位に細菌感染を起こす危険性があるからです。
注射による感染の原因としては、常在菌と呼ばれる、主にブドウ球菌などを、皮膚の消毒不足のため針を刺した時に一緒に押し込んでしまう場合や、針、注射器あるいは薬液そのものが汚染されている場合などがあります。さらに、注射した時にできた穴から、注射の後で細菌が入り込んで感染を起こすこともあり得ます。そのために、注射の時は清潔な操作で器具を汚染しないようにし、皮膚をよく消毒して、注射の後にはガーゼなどで覆います。アメリカでは筋肉注射などは皮膚の消毒もしないことがあると聞きますが、日本の湿気や日本人の気質から、やはり消毒なしで注射することは、私が注射される場合でも強い抵抗感があります。
では注射の後、細菌が穴から入り込んで感染を起こす確率がどのくらいあるのかといえば、じつはわからないのが現実なのです。筋肉注射、静脈注射、皮下注射、皮内注射などで、糖尿病などの免疫力が落ちている状態でなければ、皮膚や皮下の穴はすぐにふさがって、シャワーなら数時間後には問題ないかもしれません。なお、ひとつ前の豆知識で少し説明しましたが、風呂とシャワーでは水圧の条件が異なります。
一番問題になるのは、感染に弱い、関節への注射の後です。関節軟骨には血管がなく、主に血液から運ばれる白血球などの感染を防ぐ細胞に乏しい部位なので、感染に弱いのです。このため、人工関節の手術の時は無菌室で行い、術者は宇宙服のようなガウンを着て、自分の吐く息を濾過(ろか)して細菌を空気中にばらまかないように配慮しているくらいです。
その関節注射後に、風呂を何時間制限するかに関してはさまざまな議論があります。日本臨床整形外科学会のメーリングリストでも、以前に何度かこれに関する議論がありました。皮下や筋肉がすぐに閉じるので、風呂の制限はほとんど必要ないという医師もいます。数時間禁止という医師や12時間以上禁止という医師もいます。しかし、患者さんによっては、皮膚も皮下組織も筋肉も薄くて、外部と関節の間の壁がとても薄いことがあります。このような時に、すぐに風呂に入ってもよいとは怖くてとてもいえません。実際、メーリングリストでもさまざまな意見がありました。
私は開業してから、患者さんの膝関節注射後に感染を起こした経験があります。皮膚の消毒不足か、注射器の汚染か、注射後の穴からの汚染か原因はわかりませんが、その患者さんに多大な迷惑と不便と痛みをかけたことは事実です。それゆえ、私としては慎重に対応しています。筋肉注射や静脈注射の場合、注射後6時間風呂に入らないように説明しています。関節注射の場合は12時間、関節液を抜く場合は、太い針を使うので約24時間風呂に入らないように説明しています。中にはもっともっと慎重な医師もいると思います。感染は何万回か注射をすれば起こりえる不可避の事故とはいえ、一度起こると患者さんの不利益は大きいので、医師も患者さんも十二分に注意をすべきだと思います。私も大きなダメージを受けました。