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ラジオNo.006
ラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」
2004年5月17日放送 2004年5月31日放送
BSラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」
「骨粗鬆症」高齢化社会の到来と共に骨粗鬆症という病気が「骨が弱くなり折れやすくなる病気」として一般の方々にも広く認識され始めています。正式には「低骨量と骨の微細構造の劣化が特徴的で、その結果骨の脆弱性が増加し、骨折しやすい疾患」と定義されます。2001年「国民衛生の動向」によれば、骨粗鬆症及び骨折が我が国の寝たきりの原因の第2位を占めています。現在、我が国では1100万人近い方が骨粗鬆症に罹患していると推定されています。
骨粗鬆症により骨折を生じれば、勿論生命予後も悪くなりますが、何より患者さんの日常生活動作や生活の質が著しく低下し、さらに医療経済的にも社会に対する負担が増加することになります。50才女性の少なくとも42%は生涯に脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、上腕骨近位部などのいずれかの部位の骨折を起こす可能性があるとされています。70才以上になると急速に大腿骨頸部骨折が増え、大腿骨頸部骨折を一度生じると一年以内の死亡率が10~20%と高く、また手術療法を行っても70%の患者さんが何らかの介助なしでは歩行できなくなります。
しかし、一般の医師による骨粗鬆症の理解はいまだに不十分で、骨粗鬆症を「骨の老化現象」と考え、疾患とは見なさず、特に治療をしない方が多くおられます。ここで重要なことは骨折を骨粗鬆症の重大な合併症と考えることです。例えば他の生活習慣病である、糖尿病とその合併症である網膜症・腎症・神経症や高血圧とその合併症である脳卒中と同じ関係だと考え、骨粗鬆症をまだ骨折を起こしていないがその危険性が増大している疾患として捉え、診断し、治療することが大切なのです。日本骨粗鬆症学会が定めたガイドラインにも「骨粗鬆症の予防と治療の目的は骨折の防止である」と明記されています。
例えば病院に勤務する多くの医師は骨粗鬆症には余り関心が無く、診断と治療を丁寧に行っていないと思われます。私もそうであったと思います。
整形外科クリニックを開業して感じるのは、如何に高齢の患者さんが多く、しかも骨粗鬆症に罹患している方が多いと言うことです。また背中が曲がることを気にして受診する患者さんも増えています。患者さんにとっては骨折を生じて寝たきりになることも怖いのですが、脊椎の骨折のため背中が曲がって格好が悪くもなりたくないのです。また背中が極度に曲がったために心肺機能が低下したり逆流性食道炎などの胃腸障害が生じている患者さんが案外おられます。
骨粗鬆症の原因には閉経後骨粗鬆症と老人性骨粗鬆症などの原発性骨粗鬆症と内分泌疾患やステロイドの使用などに続いて生じる続発性骨粗鬆症があります。ここでは主に原発性骨粗鬆症についてお話しします。
骨粗鬆症の診断です。骨量測定の方法としてx線写真の濃度を測る方法や二重X線のDXAなどで骨密度を測定する方法が多く用いられていますが、最近ではX線の被爆のない超音波を利用した方法も利用されています。超音波による測定ではスーパーマーケットやフィットネスクラブでもサービスのために骨密度の測定をするところがあるようです。
ただ注意すべきは結果の判定です。以前は同年齢の平均骨密度と比べていましたが、若年成人平均骨密度に比べて80%以下を骨量減少、70%以下を骨粗鬆症と診断します。さらに脊椎圧迫骨折の既往のある方は若年成人平均骨密度の80%以下の骨密度でも骨粗鬆症と診断されます。フィットネスクラブなどで測定して貰い、同年齢の方より少し密度が多いとのことで正常と勘違いされている方がしばしば見られます。医師が正しく診断してあげることが必要だと思います。
X線やDXAなどは内科系の先生には器械の問題で診断しにくいかと思いますが、最近は尿中あるいは血中の骨代謝マーカーが簡単に測定できるようになりました。骨代謝産物であるⅠ型コラーゲンN端テロペプチドすなわちNTXやデオキシピリジノリンすなわちDPDなどは保険適用にもなり、2002年度の骨粗鬆症学会の指針にも特に薬剤使用の指標としても使えることが示されています。
NTXは骨が一日にどれだけ代謝、分解されるかの指標であることから、NTXが高値であれば骨粗鬆症になるスピードが速いと言えます。後に治療のところで述べますビスフォスフォネート製剤の投与により約1ヶ月の短期間で尿中のNTXは著明に低下することが報告されていますが、このことは将来骨量が増加することを予想させ、実際にそのようなエビデンスが示されています。
治療ですが、先ほども述べましたように、骨粗鬆症の治療の目的は骨折の予防です。第一に運動療法などの理学療法です。宇宙飛行士が長い期間宇宙の無重力地帯に過ごせない大きな理由の一つが骨粗鬆症にあることは有名です。適度な運動負荷が骨量すなわち骨密度を増やすことは明らかで高齢の方にも安全な方法で運動を指導する必要があります。
また栄養が悪いと骨粗鬆症になりやすいこともわかっています。最近の若い女性に見られる極度のダイエットは骨量を減少させます。
高齢者は転倒しやすくなりますが、バリアフリーの環境やヒッププロテクターの使用も考慮されるべきでしょう。
日本人の栄養でカルシウム摂取量は先進国では最低レベルです。これは乳製品の摂取が少ないなどの事情にもよりますが、厚生労働省の示すカルシウム必要量が600mgとなっていても、最低800mgは必要であると言われています。このための食事指導やあるいはカルシウム製剤の投与が必要です。実際には一般の方々はいろいろな方法でカルシウム製剤を自ら服用していることも多いようです。
薬物療法ですが、現在我が国で用いられている薬剤には、カルシウム製剤、エストロゲン製剤、カルシトニン製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK製剤、イプリフラボン製剤、ビスフォスフォネート製剤などがあります。従来内科系の医師を中心に活性型ビタミンD3製剤が広く投与されてきましたが、骨折予防効果のエビデンスが示されているのはビスフォスフォネート製剤だけで、いまでは急速に骨粗鬆症の治療薬剤としてビスフォスフォネート製剤が広まりつつあります。エストロゲン製剤は乳ガンなどの発生率を上昇させるため慎重に投与する必要があると思われます。
ビスフォスフォネート製剤には第1世代のエチドロネート、第2世代のアレンドロネート、第3世代のリセドロネートがありますが、リセドロネートでは北米とヨーロッパで行われた大規模試験で、大腿骨頸部骨折の発生率を40%抑制し、椎体骨折の発生率を50%近くまで抑制することがわかっています。さらに続発性骨粗鬆症であるステロイド性骨粗鬆症では椎体骨折の発生を70%も抑制することが示されています。その上、最新の報告で、日本人でも骨折防止効果が証明されています。
このように最近では骨折を予防する効果のある薬剤が登場しています。ビスフォスフォネート製剤は服用の仕方が朝起床後すぐで30分間は食事をせず、寝てはいけないなどといくつかの制限があるため、医師にとっても患者さんにとっても面倒だと思われることが多いようです。しかし早朝空腹時に服用すれば胃痛を感じる方でも10時や3時や就寝前30分以上前に服用して貰えば案外すんなりと服用できることが多いようです。早朝空腹時が一番ビスフォスフォネート製剤の吸収がよいのですが、その他の食間でも薬理効果がかなりあることがわかっています。慣れてきてから早朝空腹時に変更するのも良いかもしれません。現在アメリカでは1週間に一度一週間分の錠剤を服用する方法も採用されています。わが国においてもそのように例えば月曜日の朝一錠服用すればよいというふうになるかもしれません。
骨粗鬆症は従来考えられていたよりもより重要な疾患、重篤な病気だと認識されつつあります。高齢化社会を迎えて、我々医師が骨粗鬆症という疾患を正しく認識し、患者さんを診断して、適切な治療をしていくことが大切だと思われます。