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ラジオNo.007
ラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」
2004年5月24日放送
BSラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」 2004年6月7日放送
「骨折・治療法の選択について 保存法か手術法か(診療所の立場から)」[はじめに]
骨折の原因、分類や治療法、合併症について短時間で述べる事は不可能なので、今回は特に治療法の選択について、すなわち診療所の立場から保存法か手術法かを選択することについて述べさせて頂きたいと思います。[総論]
小児の場合はまず保存法が原則です。一般に小児は治癒力・自家矯正力が旺盛なので出来るだけ保存的に治療します。しかし、上腕骨外顆骨折は骨片が筋肉に牽引され転位しやすいので多くの場合手術法が必要となります。また骨端線(成長軟骨)損傷を含む場合も将来の変形治癒を防ぐため整復固定の手術法を必要とすることがあります。
高齢者で痴呆や皮膚の褥創の問題でギプスなどの外固定が望ましくない場合、むしろ手術的に早く強固な内固定を選択することがあります。
長管骨の骨幹部の横骨折や短い斜骨折は整復後も転位しやすく、また骨の接触面積が少なく骨癒合に不利なため手術法を選ぶ方がよいことがあります。
粉砕骨折の場合、全体の形がよければむしろ保存法を選択しますが、その際に一部遷延治癒が生じればその部分だけ手術をする方がよいこともあります。
関節面を含む骨折は将来変形性関節症を生じるのを防ぐため、手術的に関節面を整復し固定する必要があります。
骨折に伴って神経麻痺や血管の循環障害の見られる場合は手術をできるだけ早くする事が必要です。[各論]
診療所でみかける代表的な骨折に関して保存法がよいか手術法がよいか述べます。胸椎・腰椎の圧迫骨折
高齢者ではしばしば軽微な外傷で生じます。交通外傷などではなく、骨粗鬆症が原因の骨折ではコルセットや胴ギプスなどによる保存的治療を原則として行います。しかし時に偽関節を生じて疼痛が持続する場合などや神経麻痺を生じる例では手術法を選択することもあります。
鎖骨骨折
よくある中央1/3の骨折は保存的治療が原則です。鎖骨バンドや8の字包帯で固定します。開放性や神経、血管損傷がある場合、また骨片が皮膚を突き破りそうな場合や外側1/3の骨折で整復が困難な場合は手術法を選択します。
肋骨骨折
一本の肋骨が2カ所以上で骨折し呼吸障害をきたしたりしている場合などを除いてほとんど保存的に治療します。
上腕骨骨頭骨折、外科頸骨折
上肢を下垂位にして、程良い整復と安定性が得らればハンギングキャスト法などの保存療法を選びます。整復困難な場合、また整復しても不安定な場合や骨片が3~4パートに分かれ離れているときなどは手術法を選択します。
上腕骨骨幹部骨折
骨折が安定で転位がないものは保存的に治療します。横骨折や短い斜骨折は保存法では骨癒合しにくいため手術法がよいと思われます。また橈骨神経麻痺がある場合も手術法を選択します。
上腕骨顆上骨折
小児に多い肘周辺の骨折ですが、小児の場合、骨折の状態によりまた治療者の考え方により保存的から手術法まで様々な方法があります。小児の場合は保存的にせよ手術的にせよ特に直後の循環障害、すなわちVolkmann拘縮や将来の内反肘変形に十分注意する必要があります。
上腕骨外顆骨折
総論でも少し述べましたが、成人に限らず小児でも骨片の転位のある場合手術法を選択します。不全骨折で転位のない場合はギプスや副子固定でよいこともありますが、数日後に骨片が転位してくることもあるので経過観察を慎重に行う必要があります。
尺骨肘頭骨折
骨片の転位がある場合、上腕三頭筋の収縮で整復保持は困難でありまた関節内骨折であることより手術法を選択します。
橈骨頭骨折、橈骨頚部骨折
橈骨頭の上腕骨に対する関節面が1/3以上転位しているときや頚部が約30度以上傾斜しているときは手術的に整復固定をおこないます。
前腕骨骨折
橈骨、尺骨の整復が得られ安定がよければギプスなどの保存的治療を選びますが不安定な場合などは手術法を選びます。また尺骨骨折と橈骨頭の脱臼を伴う「Monteggia骨折」や橈骨骨折と尺骨頭脱臼を伴う「Galeazzi骨折」などを見逃さないことが大切で、その場合、骨折を整復しても脱臼が不安定な場合は手術法を選びます。
橈骨遠位端骨折
転倒して手のひらをついたときに遠位の骨片が背側に転位する「Colles骨折」は頻度の高い骨折です。整復しギプスなどの外固定の保存法がよく選ばれますが、整復しても不安定な場合、また整復困難な場合や整復・ギプス固定後ギプス内で転位や橈骨の短縮が生じるときは手術法を選択します。
手の甲側をついて遠位骨片が掌側にずれる「Smith骨折」は骨片が整復後に再転位しやすいため多くの場合手術法を必要とします。
手関節内骨折である「Barton骨折」は関節面のズレがある程度あれば手術法が選択されます。
舟状骨骨折
最初はレントゲンに骨折線が現れないことがあり診断に注意を要する骨折です。保存的に加療しますが、ギプスは拇指の基節骨まで5~6週間以上の固定を要します。偽関節を生じれば手術を行います。
Bennett骨折
第一中手骨基部のCM関節の脱臼骨折ですが、整復の保持が困難で多くの場合手術的に治療します。
指骨骨折
いろいろな骨折のタイプがあり一概には言えませんが、整復し安定するものは副子固定などの保存法を選びます。整復保持が困難なものや関節内骨折などでは手術法を選びます。
大腿骨頸部骨折
高齢者が転倒して起きられないときはこの骨折を疑いますが、股関節の痛みが少しだけで歩ける場合があります。特に骨折が不全骨折で転位のない場合や骨頭が陥入している場合は患者さんも医師も軽く考えがちですが、いずれ骨折部が転位してくる可能性が高く手術をする方がよいことが多いと思われます。
大腿骨骨幹部骨折
整復の保持が困難なため小児の場合は入院し牽引などの保存法を選び、大人の場合は多くの場合手術法を選択します。
膝蓋骨骨折
横骨折で骨折面が開いているときは大腿四頭筋の筋力により整復位の保持が困難なため手術を要します。横骨折でも不全タイプで骨折部が開いていないときや縦骨折などでは装具やギプスで保存的に治療可能です。
下腿骨骨折
整復可能で安定していればギプスや副子などで保存的に治療できます。骨折部が不安定な場合は手術方を選びます。
足関節骨折
内果・外果の転位のある骨折の場合や遠位脛腓関節の離開などがあれば手術法を選びます。転位の少ないときは保存的に治療が可能です。
足根骨骨折
踵骨骨折で距骨との関節面の転位が大きいときなどは手術を選びます。関節面が比較的保たれていれば保存的に治療します。
距骨骨折で頚部骨折や体部の脱臼骨折は骨壊死を防ぐため可及的早期に手術で整復固定します。
中足骨骨折、足趾骨折
足部アーチに破綻をきたすものは手術適応となりますが大多数の中足骨骨折では保存的治療を選びます。足趾骨折も多数趾骨折や整復保持困難な場合を除き保存的に治療します。
けがをしたときのレントゲン写真では骨折線がはっきり見えなくても、その後の経過で骨折がはっきりしてくることがしばしばあります。例えば、脊椎の圧迫骨折、舟状骨骨折、高齢者の大腿骨頸部骨折、小児の若木骨折などがあります。患者さんの圧痛点をよく観察し、疼痛が持続するときには必ずレントゲンをもう一度再検する必要があります。
[まとめ]
一度保存法で治療を開始してもレントゲン検査でギプス内で骨折の転位が増悪したときなどは途中からでも手術法に切り替えることも必要になります。
また高齢者の場合、一般には手術適応でも保存法を選ぶことや逆に保存法で治療可能でも早期離床のため手術法を選択すべき時もあります。寝たきりになることを防ぐべく、患者さんの状態と家族の介護の方針もふまえて治療を考える必要があります。
小児の骨折は診断と治療を特に注意深く行うべきです。肘周辺の骨折はさらに注意が必要です。
今まで述べてきたことは骨折の一部分のお話しでこれら以外の骨折や様々な状況があります。経過をよくみてその都度保存法を選ぶか手術法を選ぶか慎重に考慮する事が大切だと思われます。