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ラジオNo.017
ラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」
2005年1月17日放送
BSラジオ日経「メディカル・ダイジェスト」 2005年1月31日放送
「当院における骨粗鬆症治療の実際」
高齢化社会の到来と共に骨粗鬆症が一般の方々にも広く認識され始めています。骨が弱くなり折れやすくなる、寝たきりになる、背中が曲がって格好が悪い、などの心配で病院を受診される方が増えています。また、マスコミでも骨粗鬆症の特集をしばしば取り上げるため、この病名は知らない方が少ないほどだと思われます。
しかし、骨粗鬆症は癌や心筋梗塞や脳卒中などの病気に比べ、生命予後にあまり関わらないとして、軽く考えられているように思われます。確かに、骨粗鬆症では直接、命に関わる病気ではないので緊急を要する病気ではありません。現在わが国では約1100万人の骨粗鬆症の患者さんがおられるといわれ、しかも、寝たきりの原因の第2位を占めることから、治療する側の医師ももう少し、この病気に関心を持ち、積極的に治療していく必要があるのではないでしょうか。
日本骨粗鬆症学会による骨粗鬆症の治療に関するガイドラインなども作られ、骨粗鬆症に対する診断基準や治療指針が明確に示されています。そして、骨粗鬆症の治療の目標は「骨折の予防」であるとされています。しかし、残念ながら、先ほど述べたわが国における約1100万人の潜在的な患者さんの内、実際に治療されている方は半分にも満たないと言われています。
以前は、骨粗鬆症の診断に腰椎のエックス写真で判定する必要があり、整形外科医以外の医師には診断をつけにくいこともありました。その後、手のX線写真を用いたMD法でかなり簡便に骨密度を測定できるようになりました。さらに、DXA法などでもコンパクトで正確な器械が一般に流通するようになりました。その後、超音波でどこでも誰でも簡便に骨密度の近似値を測定できるようになっています。骨粗鬆症は他の慢性疾患の中でも比較的簡単に診断ができる疾患と言っても過言ではないと思います。もちろん、骨粗鬆症には、閉経後や老人性の原発性骨粗鬆症と、内分泌疾患やステロイド投与などによる続発性骨粗鬆症など、いろいろ原因はありますが、ここでは原因の大多数を占める、原発性骨粗鬆症とステロイドの服用による骨粗鬆症について、実際に当院でおこなっている治療について紹介させていただきます。
当院へ来られる患者さんの3分の2が女性です。女性で55歳から60歳以上の方には腰痛などの疾患があるときはもちろん、例えば手の腱鞘炎で来られた方でも、骨密度の検診を勧めています。また、当院は関節リウマチやその他の膠原病の患者さんも約140人ほど通院しておられ、そのうちかなりの方がステロイドを服用されています。これらの方もできるだけ骨密度の検診を勧めています。リウマチであるだけで、運動量の低下なども含めて骨粗鬆症のリスクが高いのですが、最近の骨代謝学会の勧告にもありますように、少量でもステロイドを服用すると骨粗鬆症になるリスクが高いため、その治療をする方がよいとなっています。
当院では原則として前腕骨遠位でのDXA法で骨密度を測定して骨粗鬆症を診断しています。 20~44歳の平均骨密度を若年成人平均値(Young Adult Mean, YAM)と言います。以下ここではYAMと言わせていただきます。以前は患者さんと同年齢の方の平均骨密度と比較して、有意差以上に骨密度が低下していなければ、正常であるとの考え方もありました。しかしこの考え方では、例えば、80歳の女性で骨密度が80歳の女性の平均と同じであれば正常と判断されてしまいます。実際には80歳の方は大腿骨頸部骨折や脊椎椎体骨折などを生じる危険性がかなり高くなっています。現在では、骨折リスクを評価するという観点から、このYAMの骨密度と患者さんの骨密度を比較して骨粗鬆症の診断をするようになっています。最近、フィットネスクラブやスーパーマーケットなどで超音波を利用して骨密度をサービスで計測することが多くなっています。この場合、医師でない一般の職員が結果を判定し、年齢相応で正常として誤った判断をされていることがよくあります。
YAMが70%以下の方は女性でも男性でもその患者さんと相談して、治療を希望される場合は治療します。YAMが70~80%の女性の方でも脊椎の圧迫骨折などが過去に1回でもある方には治療をお薦めします。30~50歳の女性でYAMが80%以上あっても、同年齢の平均骨密度よりかなり低下している方は、その患者さんと相談して、例えばカルシウムなどの服用をお薦めします。関節リウマチの患者さんはほぼ全例骨密度を測定しています。ほとんどの方でYAMが70%以下かあるいは同年齢の平均骨密度よりかなり低下しておられる方が多いので、骨折予防を考えて骨粗鬆症の治療を強く勧めます。治療の原則は運動療法と食事などの生活指導ですが、高齢の方には軽い散歩や体操を勧めています。また、長く続けてきた食事習慣を大きく変更することは難しいのですが、カルシウムを多く含む食事を心がけるように指導します。
そして患者さんが希望する場合は骨粗鬆症の治療薬を投与します。私の開業当初は治療薬として主にカルシウムとビタミンD3の投与、及び、カルシトニン製剤の注射で治療をしていました。その後、骨密度を有意に上昇させ、骨折のリスクを有意に低下させる効果のあるビスフォスフォネート製剤の発売とともに、最初は第2世代のアレンドロネート、現在では第3世代のリセドロネートを主に投与しています。これらビスフォスフォネート製剤の服薬は朝起きてすぐ、などと患者さんにとってもかなり面倒な服用方法になっています。また、朝、空腹時に服用すると必ずしも胃潰瘍などを生じていなくても、胃腸の異常を感じる方が多いと思います。その場合は私の判断で、イギリスでなされている服用方法である、10時や3時のおやつの時間や寝る前30分前の食間に服用していただくようアドバイスしています。そして慣れてきたら、朝食前30分以上前に変更していくようにしています。ビスフォスフォネート製剤は骨折予防効果などのエビデンスがはっきりしているために、当院では骨粗鬆症の治療の第1選択薬にしています。
どうしても空腹時にビスフォスフォネート製剤が服用できない方には、カルシウム剤とビタミンD3製剤を投与したり、ビタミンKや最近発売されたラロキシフェンなども患者さんと相談しつつ服用していただいています。もちろん、ビスフォスフォネート製剤では食道潰瘍の既往や、ビタミンKであれば、ワーファリンの服用がある場合や、ラロキシフェンであれば、深部静脈血栓などの既往のある方には投与しないように注意します。
リセドロネートが発売されたときに、当院の15人の女性の患者さんでビタミンD3からリセドロネートに変更して、骨代謝マーカーである、尿中NTXや骨密度を調査したことがあります。その結果、リセドロネート投与後1ヶ月で尿中NTXは有意に低下し、6ヶ月後の骨密度も4.57%とやはり有意に上昇していました。その後、リセドロネート投与1年を経過した患者さん113例で骨密度の変化を調査しましたが、26.5%の方が骨密度減少、73.5%の方で骨密度が不変か上昇している結果を得ました。この調査時には朝起きてすぐ、朝食前30分以上前という服薬指導が受け入れにくい患者さんがしばしばおられて、毎日服用しておられない患者さんで先ほどの骨密度が減少している例が多々ありました。この1年間は、イギリス方式にのっとって、午前1 0時や午後3時の食間に服用してもよいと、気楽に服用してもらうようになって、多くの方が毎日リセドロネートを服用されるようになったためか、骨密度はかなりの方で上昇する傾向になっています。将来の骨折や寝たきりを少しでも予防するために、われわれ医師が骨粗鬆症の診断と治療を患者さんに対して、指導していく必要があると思います。患者さんを治療される医師は是非、この骨粗鬆症という病気に興味を持って、治療をしていただきたいと思います。