フォルクマン拘縮(こうしゅく) (阻血性拘縮(そけつせいこうしゅく))
小児の上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)のときに注意を要する重大な合併症として有名です。また、たまに睡眠薬を過剰に服用して5~ 6時間以上同じ姿勢で熟睡して腕をからだで圧迫したために起こることがあります。骨折に伴う腫しゅ脹ちょうにより動脈の血流障害を生じ、前腕屈筋の変性や壊死、正中神経・尺骨神経麻痺などをきたします。この病態を見逃すと、筋肉の変性や神経麻痺が残り、大きな障害になることがあります。
初期症状として有名な5P、すなわち pain(疼痛)、pallor(蒼白)、 paresthesia(知覚障害)、paralysis(運動麻痺)、 pulselessness(脈拍消失)を見逃してはならないのですが、これは医師が注意すべきことです。私はかつて看護学校で整形外科の講師をしていたとき、試験に必ずこの題材を最も重要な問題として出題していました。詳細は省きますが、解答は、小児の上腕骨顆上骨折の手術後の夜に患者さんが患肢を異常に痛がったりしたときは、必ず迅速に医師を呼び出し、患者さんを診察してもらうべきである、ということでした。これを怠ると、取り返しのつかないことになりえます。時には、前腕の筋膜切開をする必要があります。私はかなりたくさんの小児の上腕骨顆上骨折の治療を経験し、保存的に牽けん引いんしたり、経皮的ピンニング手術などをしてきましたが、幸いにも筋膜切開を行ったことはありません。しかし病院時代、必要なときは緊急に筋膜切開を行う覚悟でした。
下腿も前腕同様、筋膜の解剖的な問題で、骨折したときや、手術後に循環障
害をきたすことがあります。下腿の複雑な骨折のとき、下腿の筋膜切開を緊急
に行った経験は数回あります。筋膜切開術は、医師に経験があるか、経験のあ
る上司がいないと、なかなか実施できないものです。