先天性内反足、内反足
男性対女性が2 : 1 と男児に多い病気ですが、最近はかなり減ってきて珍しい病気になりつつあります。子宮内で胎児の足が内反位に強制されることによって起こるとする機械的原因説などがありますが、いまだに原因ははっきりしていません。
病院で出産したときには整形外科医が新生児検診を行います。このとき、もちろん全身の整形外科的な異常も見るのですが、主に内反足、斜頚(しゃけい)、先天性股関節脱臼 の3 つの整形外科的先天性疾患がないかどうかをチェックします。内反、尖足(足関節が底屈する。下を向く)をきたす新生児は時々見られるのですが、手で簡単に普通の肢位に矯正できる場合は内反変形あるいは内反傾向であってこの病気ではありません。この場合は、お母さんが毎日数回、
足のマッサージと矯正をすれば比較的容易に治ります。 本当の内反足は足の内反、尖足(せんそく)、前足部の内転、足の凹足(おうそく)の4 つの変形からなります。新生児期ではレントゲン検査ではまだ軟骨成分が多くほとんど骨が見えませんが、正常側に比べて足根骨の骨化が遅い傾向にあります。
治療は早ければ早いほど結果がよくなります。まずは矯正ギプスが基本ですが、生後すぐにはギプスは脱げやすく、また皮膚がデリケートであるなどの問題から、布絆創膏などで矯正することが多いと思います。私が整形外科になりたてのころ、愛媛県立中央病院の整形外科には時々先天性内反足の新生児が病院での出産や紹介で来院されました。当時の部長の指導のもとに、九州大学名誉教授の神中(じんなか)正一先生の神中整形外科書を参考にして、治療しました。
週2回、まず足をマッサージしながら矯正し、その後にボール紙で作った足底板に絆創膏(ばんそうこう)や包帯で矯正を行います。生後1 ヵ月後からは矯正ギプスを1 週間ごとに巻き直します。そういえば、私が医員で京大病院にいた約30年前に、九州から京都まで毎週このギプスを巻きに来る赤ちゃんの患者さんとご両親がおられました。ギプスの後は装具などで矯正します。それでも変形が強い場合は手術を行います。
神戸市立医療センター中央市民病院時代に、ある患者さんで後内方解離術という手術を部長が執刀するのに立ち会い、主治医にならせてもらいましたが、小さな足を手術するのはなかなか大変でした。この子どもは両足の先天性内反足でしたが、その後の経過は良好でした。先ほど述べたように、今は母親のからだが大きくなったり、あまり強く腹帯を締めないようになったり、胎教が普及したためか、先天性内反足も先天性股関節脱臼も激減しています。最近は各都道府県に小児整形外科の専門病院ができていて、内反足などの特殊な病気はほぼそこに紹介されるか受診されるため、私より若い整形外科医では本当の先天性内反足を治療した経験のない医師が多いのではないでしょうか。見たことのない整形外科医もいると思います。