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肩こり

※このページは、首の後面の「肩こり」を引用しています。

 同じ姿勢で長時間細かい仕事をした後などに、首や肩甲骨や肩のあたりに、おもだるい、つまる、張るなどと感じることを、日本語では「肩こり」といいます。自分の好きなことなどを楽しんでいるときはあまり感じませんし、生まれてから一度も肩こりを経験したことがない人もいます。日本で「肩こり」という言葉を初めて使ったのは、あの夏目漱石で、それまでの日本人は、肩が「張る」などといっていたそうです。夏目漱石以降、肩こりというイメージは、その言葉とともに、日本人の意識の中に深く根付いてきました。
 実際、日本以外の国では「肩こり」という概念は、日本のそれとはずいぶん違うようです。英語ではneck stiffness、stiff neckなどといわれるようですが、多くの外国人は、日本人ほど肩こりに悩まされない、あるいは肩こりを知らないようです。海外の映画やドラマでも、あまり肩を叩いたり揉んだりするシーンを見ません。
 原因は主に筋肉の疲労です。同じ姿勢を続けていると、重い頭を支え、重い腕を引っ張り上げ保持している僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋(りょうけいきん)や脊柱起立筋などが疲れてきます。血行が悪くなり、グリコーゲンをエネルギーとする筋肉に、その老廃物としての乳酸が溜まると重だるい感じを生じます。
 日常生活は、車の運転、パソコンの操作、育児や炊事など、同じ姿勢で行う仕事が大半です。人間の頭は脳とそれを守る頭蓋骨が発達していて、ほぼ体重の10分の1 あり、とても重いものです。その重い頭がまっすぐ首の上に載っていればまだしも、下を向けばたちまち大変な力が首や背中の上部の筋肉にかかってきます。同時に片腕だけでもかなりの重さです。重い物を持てばなおさらですが、その重い腕はからだとは直接骨でつながっておらず、肩甲骨を介してぶら下がっているだけなのです。それゆえ自由に動くのですが、腕を支え、垂れ下がらないように引っ張り上げているのは、肩甲挙筋や菱形筋などの筋肉です。寝ていない限り、頭や腕を上に下に支えている筋肉に疲労が生じるのは当たり前かもしれません。
 それならなぜ、日本以外の国では肩こりがあまり大きな問題にならないのでしょうか。ひとつには、日本はストレスの多い国だからといえるかもしれません。アメリカのハイスクールを描いたドラマでは、生徒たちは足を組んでくつろいだ雰囲気で授業を受けています。一方、日本では、机にきちんと向かい、足を揃えて授業を受ける学生を思い浮かべます。車を作るラインでも、ガムを嚙みながら組み立てるのと整然と黙々と組み立てるのでは、仕事の質は別にして、筋肉に与えるストレスの度合いが異なるように思います。
 もうひとつ、日本に肩こりが多い理由として、人々の意識に肩こりを病気のようにすり込んできた歴史があるのではないでしょうか。私は整形外科医になったころ、肩こりについていろいろ調べてみました。結局はっきりした説明はないものの、筋肉の疲労であることを知りました。すると、それまであった肩こりをほとんど感じなくなったのです。たまに仕事が押し詰まっていて、休む暇がないときなどに肩こりを感じることはいまでもあります。でも以前ほど気にしていません。
 肩こりを治すためには、まず原因が「筋肉の疲れである」という認識を持つことが大切です。そして同じ姿勢を続けないことが最も重要です。筋肉を疲れさせないように、仕事中に時々息抜きをし、軽く首や肩の体操をすることを忘れないようにしましょう。前にも述べましたが、同じ動作や運動をしすぎると筋肉にダメージをもたらします。そこまでいかなくても、回復が遅くなります。少しだけでも筋肉を休めてやると、また元の元気を取り戻してくれます。さらに、仕事の後は軽い体操やストレッチなどで凝った筋肉をほぐし、お風呂でゆっくり温め、筋肉の血行をよくするようにしてください。軽いマッサージもよいと思いますが、強い指圧などは筋肉を痛めるので、かえって次の日に痛むことがあります。
 腕の重さもかなりのものです。両腕を机に置いたり、肘掛けに腕を載せるなど、首や肩甲部の筋肉にかかる荷重を軽減する工夫もしてください。
 肩こりがひどい場合には、消炎鎮痛剤の湿布やクリーム、ローションなどを使います。筋肉の疲労には経口の消炎鎮痛剤はさほど効果がありません。それよりも、筋肉の弛緩作用のある軽い抗不安薬、たとえばデパスやセルシンを少しだけ眠る前に服用すれば、朝起きたときに筋肉がほぐれています。ただ、これらの薬剤は夜トイレに行くときにふらつく可能性があるので、高齢者の方は服用しない方が安全かもしれません。
 注意が必要なのは、肩こりに他の重大な病気が潜んでいる可能性があることです。首を動かして手の方にしびれが放散するときや、いろいろな治療をしてもなかなか治らない頑固な痛みがあるときは、頚椎性の神経障害の可能性があります。そのほか、心臓や胆嚢(たんのう)など内臓の病気の可能性もありますので、肩こりが持続する場合は、整形外科や内科の医師に相談してください。

井尻整形外科井尻整形外科

院長/医学博士 井尻慎一郎
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