外反母趾(がいはんぼし)
第1趾(足の親指)の付け根(MTP関節)に痛みがあれば、男性なら痛風を疑い、女性なら外反母趾を疑うと整形外科医になったばかりのころ教わりました。最近では女性の痛風の方も珍しくないようですし、この部分の変形性関節症も時々見られます。それでもやはり、外反母趾は女性に特に多い病気です。
靴を履く人は誰でも多かれ少なかれ、足の第1趾は外反(外へ向く)しています。赤ちゃんは外反していません。また靴を履かなかった原始人も外反母趾はなかったと本で読んだことがあります。私のクリニックのあるビルの地階には弥生時代の人間の足跡の遺跡が飾ってあって、やはり彼らの足は外反母趾はなく、見事に開いています。このように靴が一番の原因です。特に女性は先の細いパンプスでヒールが高ければ、足は靴の中で狭い先の方へずれて圧迫されます。そして第1趾は外反し、第5 趾は内反します。また若いころは足の縦と横のアーチが保たれていますが、中年以降体重の増加や足底の筋力の低下などにより、扁平足と同時に足が横に広がる 開張足 が生じ、このためさらに靴の中で圧迫を受けやすいのです。外反が進行すると、関節の内側にバニオンという滑液包ができたり、第1趾が第2趾の下に潜り込むような変形を生じることもあります。
予防が大切です。先の細いヒールの靴はなるべく履かないようにして、格好を気にしなくてもよいときはローヒールで先の広い靴を履くようにします。アメリカのOLは通勤はスニーカーとナップザックで、会社に着いてからヒールに履き替えると聞きます。このように靴も使い分けるとよいと思います。また、少し外反傾向があるときは、第1 趾と第2趾のあいだにはさむ「ゆびはさみ」などを夜間だけでも装着すると外反変形の進行を防ぐ効果があります。最近では、これらの足の装具はいろいろなお店やインターネットで売っています。整形外科クリニックでも相談できます。痛みを伴う外反母趾では、ゆびはさみだけでは難しいことがあります。消炎鎮痛剤の湿布やクリームを使いつつ、さらに足の甲を持ち上げて開張足を矯正するための足底板(アーチサポート)や外反母趾用の靴を装具の専門家に足の型を採型してもらって作るとよいでしょう。
変形が強く痛みがコントロールしがたいときは手術が必要になります。外反母趾の手術法は数十種類あります。でも、手術後も靴が大切です。先の細い靴を履くとまた再発します。最近では大きな靴屋さんには専門家であるシューフィッターがおられることが多いようですので、相談してください。