斜頚(しゃけい)
ここでは先天性筋性斜頚と後天性筋性斜頚(痙性斜頚(けいせいしゃけい)、炎症性斜頚、頚椎環軸椎亜脱臼(けいついかんじくついあだっきゅう))について述べます。
まず先天性筋性斜頚ですが、「先天性」というと遺伝病のように思われるかもしれません。昔から、分娩時の頚部の筋肉の損傷、子宮内での頚部の位置の異常、遺伝説などがいわれてきましたが、原因はまだ不明です。ですから、単に 筋性斜頚と呼ぶ方がよいかもしれません。新生児健診を整形外科医が行うとき、先天性股関節脱臼、内反足、筋性斜頚の3つを主に検査します。
筋性斜頚では出生直後から首を片方に傾けています。左側の筋性斜頚の場合は頭部を左側に傾け右側に回旋した位置になります。生後1週間くらいから、頭で耳のす後ろから胸骨、鎖骨をつなぐ胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)にしこりを触れます。
以前はこのしこりをマッサージする治療も行われましたが、最近ではマッサージはかえって症状を悪化させることがわかり、自然治癒することが多いので、経過をみることが大切です。それでも斜頚が残る場合は、顔面非対称などの後遺症を残さず、かつ早すぎない3歳ごろに胸鎖乳突筋の筋腱の切離術などを行う必要があることもあります。しかしこの手術は、どの程度筋腱を切離するのか、再発の可能性などの問題があり、また筋肉のすぐそばに神経や血管が走行しているので簡単な手術とはいえないと思います。
炎症性斜頚は小児の扁桃腺炎や中耳炎後に起こるもので、頚部の筋肉に痛みが急に起こり、動かすと痛がり、首を曲げている病態です。時にはっきりした感染症がなく発症することもあります。最初に小児科を受診し、紹介されて整形外科に来られる方も時々みられます。リンパ節などが腫れているときは抗生物質の投与で比較的短期間で治癒します。
頚椎環軸椎亜脱臼は環軸椎回旋位(かいせんい)固定ともいわれ、転倒などにより頚部をひねった後に斜頚をきたす状態です。しかし、原因は必ずしも外傷だけではなく、炎症や不明の場合もあります。もともと7つの頚椎のうち、第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)は特殊な構造をしていて、頚椎の左右の回旋(ひねり)はほとんどこの第1と第2頚椎間で行われています。この部分に亜脱臼をきたすことがあります。小さな子どもの場合、レントゲンでこの「ずれ」をきれいに写すことはかなり困難です。診断がはっきりすれば、頚椎カラーを装着したり、場合によっては入院して頚椎の牽引(けんいん)を数日間行う必要があります。私が神戸市立医療センター中央市民病院に勤務していた6年間に2~3人の子どもがいました。
痙性斜頚は脳などの問題による中枢性と心因性の両方があると類推されています。成人がほとんどで、容易に斜頚を戻すことができるのですが、何かの拍子にすぐに斜頚になります。私は開業して14年間で3人の患者さんが来られましたが、初めまっすぐな首が話している途中で斜めになります。脳神経外科、神経内科、精神科などの治療が必要です。