舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折
手の甲・手のひらの中にある手根骨の中で親指の付け根側に、舟状骨とよばれる小さな骨があります。舟状骨の骨折は、頻度は高くないのですが時々あり、しかも見逃されやすいので注意が必要です。ケガをした時点でのレントゲン画像では骨折線が見えず、ケガの後1~2週間くらいして初めて骨折線がはっきり写ることが多いため、診断が難しいのです。症状は手関節の痛みと握力低下です。
舟状骨は手首の手前側が関節面で軟骨に覆われて血管が入り込めないため、血行は手関節の指の遠位側から供給されるので、骨折が一度起こるとなかなか治りにくいのです。このため、転倒で手をついて最初のレントゲン検査で異常がなく、なかなか痛みが治まらず力も入りにくいため、もう一度レントゲン検査を行って骨折がはっきりしたときには、すでにそのままでは癒合(ゆごう)しない偽関節になっている場合があります。偽関節はそのままでは治らないので、骨移植をして特殊なスクリューで固定する手術が必要になります。
私は病院勤務医時代、この舟状骨の偽関節の手術が得意でした。当時日本に輸入されたばかりのハーバート・スクリューを用いて、小さな骨の隙間を形成して十字の移植骨をはめ込み、スクリューで移植骨を貫いて固定します。
開業してからは手術をしなくなりましたが、時々この骨折を見かけます。初診時に見つかれば、不便ですが親指まで固定するギプスを骨がつくまでかなり長期に固定します。私は勤務医時代に骨折を診断したとき、手術しないで治すこともたくさん経験したつもりで、開業してからはできるだけ患者さんのストレスの少ない方法を選んでいますが、舟状骨骨折だけはギプスを治るまで装着します。偽関節の場合は、手術が必要なことを説明して紹介しています。
開業して14年少しで10人弱の舟状骨骨折の患者さんを治療しましたが、一度だけ、バイク事故で両手の舟状骨を同時に骨折した青年を診ました。仕方ないので両手のギプス固定をしたのですが、食事もトイレも大変だったと想像します。両側の場合も片方の場合も、初めからギプスではなく、手術で固定する方が、骨癒合率が高いかもしれません。