姿勢性腰痛
これは整形外科の医学書にはほとんど記載されていない病名です。まだ市民権を得ていない病名かもしれませんが、私は、この姿勢性腰痛は腰痛の1つの原因である、とさまざまな経験から思います。現にこの本を執筆するために2014年のゴールデンウィークの休みはほぼ机に向かってパソコンで文章を書き続けました。ずっと同じ姿勢をしていると右の腰が痛くなりました。筋肉か椎間関節が同じ姿勢を続けすぎたために疲労と炎症を起こし、動かすと痛くなっているのだと自分で診断しました。このように同じ姿勢や動作を続けすぎると主に筋肉、そして一部の関節に疲労や炎症が起きて痛みを生じます。局所の循環障害で疲労を起こすといわれている乳酸が溜まったり、酸素不足、栄養不足も起こっていると思われます。悪い姿勢、合っていない椅子と机に長時間座る、高すぎるハイヒールを履くなどでも起こります。同じ姿勢を続けるだけでなく、腰を反りすぎたり、猫背になりすぎたり、姿勢が悪くても腰痛は起こりえます。このような腰痛を姿勢性腰痛と説明しています。
現代は昔に比べればじっとしている時間が増えています。たとえば、私が子どもだったころはテレビにはリモコンなどなく、弟と見たい番組が違えばチャンネル争奪戦が始まり、テレビの前に行っては自分の見たい番組のチャンネルをひねったものです。いまはソファーに寝そべったままリモコンで番組も音量も変えることが自由にできる時代です。つまり部屋の中でも動く頻度が減っているのです。車の運転も同じです。特に運転を仕事にしている場合はじっと同じ姿勢を続ける必要があります。運転中は一瞬でも気を緩めると事故につながるため、神経はもちろんからだも緊張しながら同じ姿勢を続けることになります。デスクに座ってパソコンで仕事をする場合も同じです。この疲れが首筋にくれば「肩こり」になりますし、腰にくれば「姿勢性腰痛」、あるいは前述した「疲労性腰痛」になるのです。
治療としてはまず同じ姿勢を続けない工夫をすることです。椅子や机の高さやディスプレイの角度が自分に合っているかなどをチェックします。そしてチャンスがあれば適当に体操をします。運転中はもちろん姿勢を変えるのも危険でしょうし、体操はできないと思います。しかし車が停止した少しの間にでも腰をちょっとだけでも伸ばすことにより、緊張した筋肉や靱帯(じんたい)や関節が動いて柔らかくなり血行も改善します。湿布やクリームをあらかじめ、あるいは痛みが生じてからでも使うとよいでしょう。コルセットはよほど痛みが強ければ使えばよいのですが、かえって腰部の筋肉が怠けて弱くなるので着けすぎないように注意しましょう。オフのときにウォーキングや体操やスポーツなどで気分転換し、からだを動かすことも予防につながります。