腰椎椎間板ヘルニア
あまりにも有名な病名だと思います。
椎体(背骨)の間にクッションと関節の働きをする椎間板がありますが、これが後方へ脱出して神経根を圧迫して炎症を起こし、腰痛や(根性こんせい)坐骨神経痛である下肢痛を生じる病気です。加齢に伴う椎間板の退行変性が原因ですが、重い物を繰り返し持ったり、スポーツなどが原因になることもあります。1回重い物を持っただけでヘルニアになることはほとんどなく、もともとヘルニア気味であったところに重い物を持って初めて症状が出ることもあります。
部位は第4腰椎と第5腰椎間に最も多く、その次に第5腰椎と仙椎間に多く見られます。
症状は、腰痛と坐骨神経痛である下肢痛ですが、多くは片側に下肢痛を生じます。ヘルニアが大きい場合は両方の下肢痛を生じることもあります。下肢痛はしびれやだるい感じの場合もあります。
診断は神経学的所見とレントゲン検査からある程度予測できますが、外来でできるMRI検査で確認します。
保存的治療では、まず患者さんのこの病気に対する意識が大切です。多くの腰痛の患者さんは外来に来られたときにとても不安げな表情をされています。「治るのかな?」「将来もずっと腰痛に悩むのかな?」「仕事が続けられるかな?」などと心配されます。からだの中心の腰部に痛みがあるのですから将来どうなるのかという不安があって当然ですが、ほとんどの場合、手術もすることなくよくなることを知っていただきたいのです。次に述べるいろいろな治療をして治ってもまた再発するのでは?と思うかもしれません。確かに、同じ部位での腰椎椎間板ヘルニアの再発も、違う部位での新しいヘルニアも起こりえます。しかし再発するかしないかはわからないことなので、あまり心配しない方がよいのです。
安静は絶対必要なものではありません。症状が強ければ安静にすればよいのですが、安静にしすぎると日常生活に復帰するのが遅くなることが多いようです。短期間安静にして、その後はコルセットや非ステロイド性の消炎鎮痛剤の服用などをしつつ、少しずつでもゆっくりと生活していく方が結果的には早く治ります。症状にあわせてペースダウンすることです。そして少しずつ動きをアップしていくのが肝要です。
消炎鎮痛剤は腫れと痛みを抑える薬です。痛ければ、あるいは神経のしびれがあれば使えばよいと思います。もちろんすべての薬は副作用に注意して服用する必要がありますが、痛みをあまり我慢しすぎるとかえって痛みが増悪することがあります。次の 根性坐骨神経痛 でも述べますが、神経痛があればリリカやビタミンB12も効果的です。
下肢の神経痛が強いときには硬膜外ブロック療法が効果的です。
日常生活の注意も大切です。急性期にはあまり重い物を持たない、同じ姿勢を続けない、背中を反らした格好を続けない、重い物を持つときには近づいて、足を前後にずらし、気合いを入れて持つ、などいろいろあります。
体操は急性期をすぎて痛みが少なくなったときにするとよいでしょう。腰痛体操と称されるものは世界中にたくさんあります。からだを前後、左右などにゆっくり動かすことがまず大切だと思います。両手を天井に向かって伸ばして背筋を伸ばす、つまりあくびや背伸びのようなストレッチを時々することが効果的です。腹筋と背筋を鍛えて腰椎を守ることは大切ですが、体操で筋肉を鍛えてそれを継続するのは至難なことです。私は患者さんには適度な歩行によって腹筋や背筋が鍛えられると説明しています。
リハビリですが、よほどの急性期はあまり温めない方がよいかもしれませんが、基本的には温めて冷やさない方がよいでしょう。ホットパック、マイクロ波などが用いられます。腰椎牽引(けんいん)は急性期にはかえって腰痛などが増悪することがあります。また、中年以降の腰椎椎間板ヘルニアには加齢による変性現象が加わっていることが多く、牽引してもあまり効果がないか、むしろよくないこともあります。先ほど述べた軽い体操などの方が有効だと思われます。
保存的治療を1~3ヵ月行っても痛みが強くて生活に困るときや、足関節が背屈できないなどの運動麻痺があったり、排尿・排便障害などの膀胱直腸障害があるときは、手術が必要なことがあります。
レーザーによる椎間板蒸散術が一時期マスコミなどでも盛んに取り上げられました。私が神戸市立医療センター中央市民病院の整形外科に勤務していたときにレーザーによる椎間板蒸散術を導入しようと勉強したことがあります。しかし、現在のところ、レーザーで治る椎間板ヘルニアの症例はかなり限られている、若い人の軽いヘルニアにのみ適応がある、その場合はレーザーをしなくても保存的に治る可能性が高い、などといわれています。結局、神戸市立医療センター中央市民病院整形外科では導入しませんでした。