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骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

 高齢化社会の到来とともに骨粗鬆症という病気が「骨が弱くなり折れやすくなる病気」として一般の方々にも認識されるようになってきました。正式には「低骨量と骨の微細構造の劣化が特徴的で、その結果骨の脆弱(ぜいじゃく)性が増加し、骨折しやすい疾患」と定義されます。2010年度の厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、骨粗鬆症および骨折がわが国の寝たきりの原因の第4位を占めています。現在、わが国では1300万人近い方が骨粗鬆症に罹患していると推定されています。
 骨粗鬆症により骨折を生じると、予後も悪くなりますが、何より日常生活の動作や生活の質が著しく低下し、さらに医療経済的にも社会に対する負担が増加することになります。50歳以上の女性の少なくとも42%は生涯に脊椎、大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)、橈骨(とうこつ)遠位端、上腕骨(じょうわんこつ)近位部などのいずれかの部位を骨折する可能性があるといわれています。70歳以上になると急速に大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)骨折が増え、一度この骨折をすると1 年以内の死亡率が10~20%と高くなり、また手術を行っても70%の患者さんが何らかの介助なしでは歩行できなくなります。
 しかし、一般の医師による骨粗鬆症の理解はいまだに不十分で、骨粗鬆症を病気とは見なさず「骨の老化現象」と考え、特に治療をしない医師も少なくありません。重要なのは骨折を骨粗鬆症の重大な合併症と考えることです。たとえば生活習慣病である糖尿病とその合併症である網膜症・腎症・神経症や、高血圧とその合併症である脳卒中と同じ関係だと考え、骨粗鬆症をまだ骨折を起こしていないがその危険性が増大している病気と捉え、診断、治療することが大切です。日本骨粗鬆症学会が定めたガイドラインにも「骨粗鬆症の予防と治療の目的は骨折の防止である」と明記されています。
 整形外科クリニックを開業して感じるのは、いかに高齢の患者さんが多く、しかも骨粗鬆症に罹患している方が多いかということです。また背中が曲がることを気にして受診する患者さんも増えています。背中が極度に曲がったために心肺機能が低下したり逆流性食道炎などの胃腸障害が生じている患者さんが案外おられます。
 骨粗鬆症の原因には、閉経後骨粗鬆症や老人性骨粗鬆症などの原発性骨粗鬆症と、内分泌疾患やステロイドの使用などに続いて生じる続発性骨粗鬆症があります。ここでは主に原発性骨粗鬆症についてお話しします。
 骨量測定の方法としてレントゲン写真の濃度を測る方法や二重レントゲンのDXAなどで骨密度を測定する方法が多く用いられていますが、最近ではレントゲンの被爆のない超音波を利用した方法も利用されています。超音波による測定はフィットネスクラブなどでもサービスのために骨密度の測定をするところがあるようです。
 ただ注意すべきなのは結果の判定です。若年成人平均骨密度に比べて80%以下を骨量減少、70%以下を骨粗鬆症と診断します。さらに脊椎圧迫骨折の既往のある方は若年成人平均骨密度の80%以下の骨密度でも骨粗鬆症と診断されます。同年齢の方より少し骨密度が高いことで正常と勘違いされている方がしばしば見られます。医師が正しく診断することが必要です。
 骨粗鬆症の治療の目的は骨折の予防ですから、まず運動療法に取り組みましょう。宇宙飛行士が宇宙の無重力状態で長いあいだ過ごせない大きな理由の1つが骨粗鬆症であることは有名です。適度な運動負荷が骨密度を増やすことは明らかで、高齢の方も安全な方法で運動しましょう。
 また栄養が悪いと骨粗鬆症になりやすいこともわかっています。若い女性にみられる極度のダイエットは骨量を減少させます。
 日本人のカルシウム摂取量は先進国では最低レベルです。これは乳製品の摂取が少ないなどの事情にもよりますが、閉経後は最低1日800mgは必要だといわれています。このため、食事指導やカルシウム製剤の投与が必要です。
 薬物療法ですが、現在わが国で用いられている薬剤には、カルシウム製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビスフォスフォネート製剤などいろいろな種類の薬剤があります。摂取の方法も、薬剤を連日、週1回、月1回服用するタイプや、月1回あるいは半年に1回注射する薬剤などさまざまです。最近では骨折しやすい人に骨折防止効果のある注射薬も使えるようになっています。どの薬剤をどのような方法で使うかは主治医とよくご相談ください。

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院長/医学博士 井尻慎一郎
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