腱炎、腱鞘炎(けんしょうえん)
通常、筋肉は腱になって骨に付着します。筋肉が収縮や伸展をして腱を介して骨、ひいては関節を動かすため、腱には大きな力が集中します。そして腱の使いすぎによる疲労や炎症が起こります。これを腱炎といいます。また腱には腱鞘(けんしょう)という組織に取り囲まれている部分があります。刀と刀の鞘(さや)のようなイメージです。これは関節を曲げると腱が浮かび上がって筋肉の力が骨や関節に伝わりにくいため腱を押さえ込む役割をしています。この腱と腱鞘がこすれて痛みを生じるのがいわゆる腱鞘炎です。さらに腱が腫れて腱鞘内をすべるときに引っかかってカクカクとなる状態をばね指(弾発指(だんぱつし))と言います(「大人の狭窄性(きょうさくせい)腱鞘炎」。腱炎も腱鞘炎も腱や腱鞘があるところではどこでも起こりえます。多くの場合、使いすぎによる炎症です。
腱炎も腱鞘炎も治療の原則は同じです。なるべく同じ動作を長くは続けない、あるいは途中で休んだり、ストレッチでもはさみながら作業をすることが大切です。筋肉と同じように、腱炎も腱鞘炎もよほど痛いときは安静にしますが、動かして使う組織なので、痛みがあっても少しずつ動かすことも大事です。
痛みの程度に応じて湿布やクリームを使いますが、腱炎や腱鞘炎には消炎鎮痛剤はあまり効果がありません。痛みが強ければ服用することもありますが、感染に弱い糖尿病やステロイドホルモンで眼圧の上がりやすい緑内障などがなければ、ケナコルトAなどの懸濁(けんだく)性ステロイドホルモンを少量、腱鞘内に注射すれば炎症や痛みが早く和らぎます。薬や注射に関しては「総論」の「薬」や「注射と手術」の注射で説明しますが、ステロイドホルモンは炎症を強力に抑えてくれます。よく患者さんに「注射や痛み止めの飲み薬は一時的なものでしょう」と質問されますが、急性の炎症は治まればそれ以上注射や飲み薬を使わなくて済みます。結膜炎に目薬をさして治ればそれ以上目薬をささなくてよくなるのと同じです。早く炎症を抑えた方が楽です。ただし、ステロイドホルモンは腱や腱鞘の組織を弱くする副作用もあるので、同じ部位に何度も注射をしないように注意します。少なくとも2 ~ 3ヵ月以上間隔をあけて注射するようにします。